Angloのブログ

英語学習における有益な記事を書いていきます。

【論文】小説英文学史概観

大学に提出する論文をのせます。

 

 

英文学というカテゴリーで考えれば、最古の作品は8世紀ごろに書かれた『ベーオウルフ(ベオウルフ)』の写本とになるだろう。現代英語文学のルーツを探れば、シェークスピアを起源としてもいいだろう。しかしながら、イギリスでは17世紀まで絶対王政の中、印刷出版が自由にできない上に、事前検閲などの言論統制が行われていた。1660年の王政復古から1688年の名誉革命が起こった結果として1695年に特許検閲法が廃止れた。18世紀に入ってから小説が飛躍的に発展した理由として、言論出版の自由が保障されていたことは大きい。こういった歴史的流れの中で、痛烈な皮肉や批判を含んだ小説が発展したといえる。イギリス最初の日刊新聞『ザ・デイリー・クーラント』(The Daily Courant) が創刊されたのも、1702年のことである。また、18世紀後半になるとイギリスでは産業革命により階級社会も生まれ、知識や教養のある中産階級が増えた。このことも、この時期に小説が発展した原因となった。

最初に小説が民衆に広く流行した時期は、ダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』(1719年)や、同じく空想旅行記の系譜を引き継いだジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』(1726年)ということになる。前述の通り、イギリス英文学の一つの傾向として、社会風刺や皮肉などを盛り込む傾向があるが、『ガリヴァー旅行記』においても例外ではない。アイルランドの民衆から搾取することで富を享受するイギリス社会を目の当たりにしたことが、この小説を書く一つのきっかけとなっている。また、ディストピア小説の側面も持っているという意味では1516年に書かれたトマ・スモアの『ユートピア』や、後に書かれるジョージ・オーウェルの『1984』にも通じる傾向が見て取れる。

19世紀に入ると、ロマン主義の時代になる。ロマン主義とは、理性や、合理主義に対し、感受性や主観に重きを置いた芸術の運動である。代表的なイギリス文学の作家としては、ウォルター・スコットがあがるだろう。架空の人物を過去の歴史に登場させて描く手法は、彼の著作『アイヴァンホー』において初めて考案されたものであったと言われている。他にも田舎の中流社会における女性の生活を皮肉交じりに描いたジェイン・オースティンなどがこの時期の作家として挙げられる。

1837年から1901年にかけて、イギリスはヴィクトリア朝時代に入る。この時期、産業革命による経済発展が頂点に達し、大英帝国が絶頂期に入る。ヴィクトリア女王は芸術家のパトロンになったこともあり、それに順応する文学者、芸術家も多くいた。ロマン主義の反動として写実主義自然主義の作家も登場した。写実主義の作家としては、チャールズ・ディケンズが挙げられる。代表作『デイヴィッド・コパフィールド』(David Copperfield)は、J.Dサリンジャーキャッチャー・イン・ザ・ライ』の冒頭で引用されていることでも有名である。この時期、自然主義作家として知られたトーマス・ハーディや、ブロンテ姉妹、トーマス・カーライル、ウィリアム・サッカレーなど、小説家の中には現実の暗部を描き出そうとする傾向が見て取れる。

20世紀に入ると、第一次世界大戦を経て近代社会の中で、モダニズム運動という前衛的な文学運動が起こる。イギリス文学において最も象徴的なのは作品の中で「意識の流れ」を用いたジェイムズ・ジョイスヴァージニア・ウルフである。「意識の流れ」はもともと心理学で使われた概念であり、「人間の意識は静的な部分の配列によって成り立つものではなく、動的なイメージや観念が流れるように連なったものである」とする考え方のことである。この手法は登場人物の無意識にあちらこちら移り変わる思考を描写するもので、これまでに無いリアリティを描き出した。例えば、 ‘Good Lord, that poor child's dress is in flitters. Underfed she looks too. Potatoes and marge, marge and potatoes. It's after they feel it. Proof of the pudding. Undermines the constitution.’ (episode 8)xvii「なんてことだ、かわいそうにあの子の服はびりびりじゃないか。食事も取ってないようだ。ポテトとマーガリン、マーガリンとポテト。気づいてからではいけない。まずは食わなきゃ。あれでは衰弱してしまう。」という描写が “Ulysses”にはある。今でこそこのような地の文における主観的描写はよく見かけるが、当時は真新しい手法であった。しかしながら『ユリシーズ』はアメリカ合衆国1921年に猥褻文書頒布で有罪判決が下り雑誌における連載は中断してしまう。

1930年代、共産主義に影響を受けた文学が数多く書かれるが、1940年代にはジョージ・オーウェル全体主義に対する警告として『アニマル・ファーム』や『1984』などのディストピア小説を執筆する。

第二次世界大戦後、多くの移民を受け入れて以来、多文化国家となり、文学にもその影響は如実に現れている。近年は日系イギリス人小説家カズオ・イシグロが1989年に『日の名残り』でブッカー賞、2017年にノーベル文学賞を受賞するなど、イギリス文学の多文化傾向が強まっている。

 

 

http://schulers.com/books/philosophy/Ulysses/Ulysses36.htm