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【論文】The Great Gatsby から見る Fitzgerald とアメリカの二面性

大学に提出する論文をのせます。

 

小説The Great Gatsbyの最も興味深い点を一言で言い表すならば「二面性」という言葉になる。この二面性は、作者フィッツジェラルド本人を象徴しているのと同時に、アメリカという国にも通底しているように見える。作家の極めて個人的な側面と、アメリカ全体を映し出す側面を物語から見て取れるという意味でも、この作品は二面的であると言えるだろう。

まず一つ目に外せないのは、作者個人の中にある二面性についてである。本作の登場人物であるニック・キャラウェイ(Nick Carraway)とジェイ・ギャツビー(Jay Gatsby)は対比的に描かれているが、どちらもモデルは作者本人と考えて間違いないだろう (Barnes & Noble)(Harada)。本書の中で、「ニックはイェール大学で学内新聞を書いていた」とあるが、フィッツジェラルドプリンストン大学で演劇の脚本や詩を作る活動もしていた。小説に限らず作者自身の体験や思想を作品に反映させる手法はリアリティを作品に吹き込む技術として、映画などでも見られることである。作者本人がニックに自分を重ね合わせていたのは、容易に推測される。しかしながらニックとは違い、フィッツジェラルドは様々な理由で大学は中退している。一流の大学に通ったが、卒業できなかったという出来事は、ある種の二面性を作者に宿したのだ。作者本人のもう一人のモデル、ギャツビーは、入学も卒業もしていないオクスフォード大学で“educated at Oxford”(Fitzgerald 65)と喧伝している。実際のところ一部の軍人に与えられた権利で、5か月間だけ通ったことがあるということだが、ギャツビーのこういったバックグラウンドや性格は作者本人の大学中退の実体験から切り取られたものだろう。

 また、ニックに関して“I’m inclined to reserve all judgements”(Fitzgerald 1)という一節に象徴されるような慎重さや、すぐに口ごもる控えめな性格などが描かれている。家は質素なバンガローで、トムやギャツビーに対しては批判的な側面も見せるが、人前でそれを口にすることは無い。対照的に、ギャツビーはオクスフォードに少しばかり出入りしたことを、卒業したかのように周囲に言い、中西部にサンフランシスコがあると思っている(Fitzgerald 65)など、実際には教養が無く、ノルマンディーの市庁舎風の豪邸に住んでいる。ニックとは真逆である。しかし、彼の言動は全て愛するデイジーのためであり、デイジーフィッツジェラルドの妻・ゼルダをモデルに描かれているという点は、この作品を考えるにあたって外せない要素にもなっている。また、華やかなイースト・エッグではなく、“less fashionable”(Fitzgerald 5)なウェスト・エッグにギャツビーが住んでいることも、本来は素朴な人間であることを示唆しているように見える。

 二つ目に、この小説に描かれるアメリカ的な二面性に言及する。この作品に出てくる多くの登場人物は、見た目や振る舞いが華やかである。先祖は格式ある欧州の有力者、など言っているが、俗物的な噂話を好む。アメリカらしさが、ここに集約されているとも言える。その中でも、最もアメリカの二面性を体現しているキャラクターは、ギャツビーとトム・ブキャナン(Tom Buchanan)だ。この小説は1922年のひと夏の短い期間の出来事を描いたものである。この期間において、アメリカという国同様、トムもギャツビーも経済的に裕福であった。しかし、彼ら二人とアメリカという国には、実態が乏しいという共通点もあった。今でこそアメリカ固有の文化や伝統は存在しつつある。しかし当時は教会、大学など権威あるもの全てが、つい最近できた偽物のヨーロッパのように見えただろう。そこでギャツビーは非合法ビジネス以外に、オクスフォード大学をはじめとした欧州的伝統で後ろ盾を固めようとしている。「モンテネグロでもらった勲章」(Fitzgerald 67)やフランス風の豪邸もそのためのアイテムと言える。トムに関してはThe Rise of the Coloured Empires 『有色人種諸帝国の勃興』という本を引き合いに出して、憂国に打ちひしがれている(Fitzgerald 13)。今で言えば白人至上主義者や差別主義者である。すがりつこうとするものはギャツビーと違うが、自らの空虚さを隠すため、ギャツビーもトムも虚飾に満ちた振る舞いに終始している。特にトムのような人間は1920年代のアメリカでは珍しくなかっただろう。というのも、国際連盟不参加の表明、KKK復活、アジア系移民排斥など、国全体での保守化の流れもあったからだ。

この小説を読んで、現在のアメリカのことを描いているようだと感じる方も多いに違いない。ギャツビーの違法な金儲け、空虚さ、表面的なプレゼンの上手さ、またTomがとる高圧的な態度や白人至上主義的な考えは、トランプ大統領のイメージとほぼ一致しないだろうか。また、昨今アメリカ発のリアリティ番組が人気だが、どこかグレイト・ギャツビーと通じるところを感じないだろうか。現在、そして未来のアメリカを考える上で、この小説は様々なヒントを与えてくれてくれるに違いない。

 

(1961 words)

 

Works Cited

 

Fitzgerald, Scott, The Great Gatsby, Penguin Books, 1925, 184p

 

Harada, Miki (2001). Seminar Papers 2000. 「GatsbyとNick」 The  Great Nick   もう一人のFitzgerald.  https://www2.dokkyo.ac.jp/esemi006/rpt00/harada.htm (accessed 2020-10-06).

 

Barnes & Noble. Sparknotes. The Great Gatsby. Characters https://www.sparknotes.com/lit/gatsby/character/nick-carraway/ (accessed 2020-10-06)